龍ヶ嬢七々々の埋蔵金

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―自分が生きた証が誰かの目に触れることを信じて、ここに一切の記録を書きとめていこうと思う。

 〇月×日
 父親から勘当された俺は、南の孤島へと流され、一人生きてゆくこととなった。
 楽園に思えた南の島、しかしそこは恐ろしい先住民の女王によって支配されていた。
 女王は毎食毎食、黄色くて柔らかいモノを貪り食い、日がな一日四角い箱の前で「げへげへ」と笑っている。果たして俺はこの恐ろしい女王が支配する島で生きてゆくことができるのだろうか?

 〇月×日
 不意を突かれ女王に捕まった俺は、左肩を脱臼させられた挙句、女王の下僕として生きてゆくこととなった。昼夜を問わず、女王は自分の気の向いた時に俺に黄色くて柔らかいモノを準備するように命令してくる。俺に拒否権はない。逆らおうものなら女王は容赦しないだろう。治ったばかりの左肩を擦りながら、今日もせっせと黄色くて柔らかいモノを準備し、女王のご機嫌を窺う。

 〇月♥日
 女王が俺に心を許した。やったね。よし、これからはずっとラブラブな同棲生活をしましたとさ、ハッピーエンド。


「……で、重護。これはいったいなんな訳?」
「えっと……なんといいますか……」
「な・ん・な・の?」
「そ、そんなに怒らないでよ、七々々ちゃん」
 場所は俺が住んでいる幸せ荘二○二号室。その部屋の真ん中で非常にご立腹な表情で仁王立ちしていらっしゃるのは、一〇年前にこの部屋で殺されたという地縛霊の女の子・龍ヶ嬢七々々ちゃん。
 そして、そんな七々々ちゃんの前に正座させられているのが、俺こと八真重護である。
 さて、なぜ俺が正座させられているのかといえば、その理由は七々々ちゃんが右手に持ってかざしている一冊のノートにある。
「いや、学校で知り合った子が小説家を目指しているって聞いてさ。なんだかいいなぁ、と思って俺も書いてみようかと思ったんだ。だけど何も思い浮かばなくてさ、そうしたらふとネトゲをやっている七々々ちゃんが目に入ってついつい……」
 そしてついつい書くのに夢中になっていて、地縛霊スキルを使い、姿を消して俺の背後に移動した七々々ちゃんの接近に気づかなかった、という訳だ。
「なんで日記形式?」
「ほら、よくあるじゃん。飛行機の事故とかで南の島に不時着した旅客機の搭乗員が、漂流中の記録を書くみたいなノリのヤツ? そういう主人公は自ずと危機に直面しないといけない訳で……」
「ふーん、それで私がその危機ってヤツですか。恐ろしい先住民の女王ですか」
「こ、これは話を盛り上げるための脚色で……」
「そんで私はいつもプリン食べて、テレビでお笑い番組見ているだけだと?」
「ま、間違ってはいないでしょ?」
「違うもん! 私はずっとテレビを見ながらプリン食べているわけじゃないもん! ちゃんとネトゲとかテレビゲームとかもやっているもん! もっとレパートリー豊富だもん!」
「うん、なんか怒るポイント違くね?」
「重要! ここ重要です! 私のアイデンティティに関わる極めて重要な問題です!」
「そ、そうなんだ」
 どうやら一〇年も地縛霊として引き籠っていると、妙なこだわりが生まれるらしい。
「だいたいなによ、この最後のヤツ? 突然ハッピーエンドって? 唐突過ぎるじゃん」
「いやさ、いざ気合いを入れて書き出したはいいんだけど、すぐに何を書いていいか分からなくなっちゃってさ」
「日記だけに三日坊主って訳ですか」

(つづく)

「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金」
Blu-ray&DVD第1巻完全生産限定版

2014/6/25 発売